2013年1月28日月曜日

アクラム・カーン『DESH』すごかった!

昨日1月27日編集部では、ハッカ糖創刊準備号でもご紹介した、彩の国さいたま芸術劇場で行われたダンス公演、アクラム・カーン『DESH--デッシュ』に行って参りました!

さいたま芸術劇場はこんな感じ。JR埼京線与野本町で降り、ここのどこに劇場が・・・って思っていると、駅から続々と続くおしゃれ人間たちの列。どう考えてもコンビニとかスーパーに行く雰囲気ではない、柄物のタイツとかパンチの効いた色のリュックとか尖ったブーティとか身につけた人たちがある一定の方向に向かって歩いて行く。

劇場入口はこんな感じ。まだ雪がちょこっと残ってました。
私はあんまりたくさんダンスを観ないので、だからでしょうか、
いまだになんとなくダンスに対しては気後れする部分が正直あります
(ハッカ糖に、「気後れすんな!」って書いてるのにね!)
・・・だって・・・・なんかみんなおしゃれだし、インテリっぽいし、
頭良さそうだし、フランス語とか英語とかしゃべれそうだし、お育ち良さそうだし・・・ねえ。
(全部甘夏のコンプレックスのなせるわざ)

特にこういう、世界的に名の知れた振付家による本格的なダンスは、
ハイカルチャー万歳! という感じがして
日頃twitterとかTBSラジオとかJ-popとかに身を浸してるものとしては
どことなく取っ付きづらいのです。まずどんなおしゃれをしたらいいのかわからない。
アクラム・カーンは昨年の英国オリンピック開会式で振り付けをされた方という。
そこについてもどう感じたらいいのかわからない。うーん。

とか談笑しながら舞台に臨みました。が、
予想通りというべきか、予想なんてしてないのではるかにというべきか、
めっちゃめちゃすごいものを観てきました。最高!
いままで観たダンスのなかでも文句無しにすっごいよかった!

今回のダンスは、アクラム・カーンによる一人ダンス。
37歳になり、「自分と向き合うダンスを初めて作った」というこの踊りは、
過去と現在を往復しながら深く自分のルーツへと潜って行きます。
アクラムの実父であるお父さんのエピソードが盛りだくさんに出てくるのですが、
最初語られたエピソードはなんともユーモラスな、会場が笑い出すようなもの。
なんと、剃った頭にお父さんの顔の絵が描いてあって、
それを見せながら(アクラムはずっとうつむいている)踊るの!
おちゃめすぎ!
そこから舞台は、アクラムが子どもに読んであげている絵本のなかに入って
アニメーションと一緒に森を抜け蜂をつかまえる
うつくしいシーンへつながり、
現在と過去を交錯する留守番電話のシーンへつながり、
アクラムの故郷バングラデシュの児童労働を巡るエピソードに広がり、
彼の父の過去の、忘れたいけれど忘れられないような残酷な話を引きだして、
破竹の勢いで観客の心をエンディングへと運んで行く。

父と子、というか親子の話というのは、もうあまりにもありふれていて
普通の演劇や小説にすると意外とべったりとしてしまい、
感情をうまくのせるのがとても難しいと思います。
実際にあっただろうエピソードが、巧みな踊りとともに展開されていくのだけれど
感情がうまい具合に抽出されていて、ちゃんと私たちの心が載るスペースが確保されている。
父に理解されない仕事をする男としてのアクラムのシーンがもう、泣けるし、
国を越えて仕事をする息子のことをわかっているのかいないのか、
土地があるから戻っておいでという父の電話がもう本当に胸に迫ってくる。
もう、おとうさーーん! って叫びたくなりました。

素朴な感想として、いつも思うのです。たとえばカルト的と言われるアーティストをみると、このひとのお父さんお母さんっていまどうしてるんだろうなー、っと。
このひとにも実家があって、田舎があって、理解したりされなかったり、
葛藤したりしてるんだろうなと。
そういうことを思わせるものすごく珍しいダンスでした。
そもそもこんなに物語性の強いダンスを初めて観ました。
私の尊敬する演出家さんはよく「俳優は三世代背負って舞台に立つ」とおっしゃっているのですが、
アクラム・カーンは自らの父と、自分と、子どもと、そして育った国と街を
しっかと背負い、そして悲しみに耐えているように見えました。
どんな気持ちで踊ってるんだろう。気になる。
そして、舞台美術も音楽も踊りももちろん一瞬たりとも気が抜けませんでした。
ダニエル氏からまたお手紙もらいますので、それもお楽しみに☆

もう終わってしまったのですが、予告編をyoutubeにて見つけました。
ぜひ観てみてください。
そして埼玉の方へ。
彩の国さいたま芸術劇場はこうした、世界的にものすごい作品をやっている
貴重な場所なので、お近くの方、通わない法はありませんぞ!!



2013年1月24日木曜日

近況報告+ハッカ糖はどこで買えますか?+ダニエルさんからの手紙

ごぶさたしました、甘夏です。いやほんとに。何をしてたかというと、

■昼の仕事
 (事務職をしています。いろんな人が動きやすいように調整ごとや相談をしたり、
  ときに深夜まで居残りしたりお菓子を配ったりします。
  高校生のとき、職業の紹介がある本をみながら
  「事務ってなんだよ、具体的に言えよ」とつねづね思っていたのですが、
  要するに他のなんでもないこと、なんでもあることを総じて「事務」
  ということなのかも。存在を気づかせないほど自然に物事を進める、
  というのが事務のプロフェッショナルだ、とつねづね思っています。)
■イベントの準備(詳細は後日!)
■次の号の準備
■実家のパソコンを整理する、住まいの整理
■雪かき
■映画サークル時代の友達が数年ぶりの新作を映画館で上映するイベント、
アントルラ vol.1 に行く、が、席がない、次の公開機会待ってます! 
■映画『Playback』を観に行く。知り合いが監督なのですが、
かーなり、トラウマになった箇所がありました。素晴らしい。
名古屋、大分、ほかで上映始まるのでお近くのかたはぜひ!
骨太の男の映画だよ! 二度観たくなる作品です。
■同じく大好きな友達Kちゃんが撮った8mm映画のアフレコに行く。
出演したのは4、5年前でした。
共演したM君がめっちゃめちゃかっこよく映ってた。
おのれは猫背が気になった。人間っていうかほぼ猫の役でよかった。。
■親知らずを抜いた、数年ぶりのドキドキ感と熱

というわけでいまここです。これからは落ち着いて更新できます!

さて、いろんな人にお渡ししているこの雑誌「ハッカ糖」創刊準備号ですが、
読者のかたにいただいたお問い合わせがあるのでお答えします。

Q:ハッカ糖はどこで買えますか?

A:いまのとこ、どこでも買えません! ごめんなさいーーー!

 と、いうのもですね、創刊準備号ということもあり、また甘夏がほかの仕事もしていることもあり、次に万端整えて走り出すため、今回はとても少ない部数しか作成できていないのです。お世話になった方、関係者、劇場等にお渡ししてもうすっかりなくなってしまうぐらいの部数です。なので、今回は甘夏とハッカ糖編集部周りだけで少しずつ手渡ししています。ごめんなさい。
 
ありがたいことに、読みたい、とか、どこで買えるの、見本はないの、
というお言葉をいろんな方からいただいているので、
現在このブログからPDFリンクで観られるよう準備をしています。
2月頭にはオープンするので、お待ちくださいね!

また、創刊号以降は販売の予定です。
こちらも続報おまちくださいませ!

そんななか、創刊準備号で全国のおすすめ演劇を紹介してくれた、
頼りになる(見た目はひょろっと頼りない)兄貴分、
ナカヤマ氏あらためダニエルさんからお手紙が届きましたよ! 
本誌で近畿公演を紹介した、中野成樹+フランケンズという劇団の、の横浜バージョンを観に行ったのです。目下あさって土曜日まで福岡バージョン、やってます。
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ぶんいたえともぶぶんいたいたとのえともとええともとのともとの中野成樹+フランケンズ『ナカフラ演劇展』D1プログラム
『マキシマム・オーバードライブ改』
『家族でお食事夢うつつ』

  ども、ダニエルです。
 演劇を見ていて醒めちゃうときっていろいろあるけど、
 ひとつは不自然なときだと思うんだよね。
 しゃべり方がヘンだったり言葉づかいがおかしかったり、
 身振りが不自然なとき。
 これはまあ、映画でもドラマでも同じなんだけど、
 例えば「そんな風に喋んないよ」って思うポイントがあると、
 気になって、話に集中できなくなるんだよね、僕は。
 これが歌舞伎とか能だと、「伝統芸能だからね」で済むし、
 そもそも「普通」じゃないセリフ回しや動きを観に行ってるから
 気にならないんだけど。
 この「不自然である」というのは、
 お話のなかでのリアリティがないと言うこともできる
 (「お話のなかで」っていうのが重要!)。
 だからそういう意味では、外国の、しかも昔の作品を
 上演することにはちょっとリスクがある。
 「日本人はそんな長々しゃべらないよねぇ」とか、
 「そんなオーバーリアクションじゃないよねぇ」って思われかねないから。

 その点、中野成樹+フランケンズ(ナカフラ)の今回の公演は、これまで同様
(僕はナカフラを見るのは7回目だったかな?)、
 外国のお話を、ストーリーの核心は残しつつ、
 セリフやキャラクターをアップデートして、
 現代のぼくたちが普通に楽しめるようにしておりました。

 と、いうわけで、まず『マキシマム・オーバードライブ改』。

 フランスが世界に誇る劇作家の一人、モリエールの『亭主学校』という作品が
 原作なのですが、これ、1661年に書かれたお話です!
 僕はこれまでモリエールの作品を2回見たことがあるけど、
 その時はそんなに面白いと思えなかった。
えともとの 当時の僕に、それらの上演のよさがわからなかっただけかもしれないけどでも、
 今回はすごく面白かった。
 理由は二つ。ひとつはキャラクター設定がよかったから。
 もともとのあらすじは、
 お互いを信頼し、干渉しない「オトナの関係」を築いている兄夫婦に反対する弟が、
 自分の婚約者を束縛するうち(部屋に監禁さえしている!)、
 結局は彼女を性格のマトモなイケメンに取られてしまうって話。
 しかも間抜けにも、弟自身が気づかないうちに二人をくっつけてしまう。
 クラシックなコメディであるこのお話を、
 ナカフラの演出で弟をDVの気があるヤンキーにしていたんだけど、
 これが絶妙で、グッと話に入りやすくなっていた。
 もうひとつは、30分で手際よく見せてくれたから。
 原作も短編なんだけど、セリフを現代っぽい表現に変えテンポも詰めたことで、
 僕らの感覚に合う上演になってたと思う。
 と同時に、文学的・歴史的には意味があるのだけど僕らが演劇として楽しむ時には
 「余計な」修飾語だとかをセリフから取っていたぶん、
 弟のアホさ+可哀想さがストレートに伝わってきた。
 
 つづいて、『家族でお食事夢うつつ』。
 アメリカの劇作家ソーントン・ワイルダーが1931年に書いた
 『ロング・クリスマス・ディナー』が原作。
 地方に住むある一家の90年(!)の歴史を45分(!)で描く。
 そういうと、「時間足りるの?」って思っちゃうけど、大丈夫。
 演劇(というかフィクション一般)では時間の経過を操作できるから。
 でも、うまくやるにはコツがいる。原作者のワイルダーは、
 場面をクリスマスに限定した。家族で過ごすクリスマスを何年かごとに見せる。
 これはとてもハッキリとした形式だから、
 一度理解すれば時間が飛ぶことに戸惑わない。
 定点観測的に見ていくから、変化もわかる。
 子どもが生まれたり、親が亡くなったり、子どもが成長し、独立したり…。
 嬉しいことも辛いこともひっくるめて淡々と時間が進行していく。
 その分、一瞬一瞬の、とりわけ幸せな瞬間の貴重さがよくわかる。
 テンポよく、サラッと上演するナカフラのスタイルは、
 こういうお話に合っていると思う。また、
 机と椅子そして天井から吊り下げた電球からなる舞台装置も、
 シンプルなだけに想像力が刺激されてよかった。

 最後に。昨年末、実家に帰り、家族で年越しをしているときにふと
 この作品を思い出しました。昨年から今年にかけて、
 わが家に大きな変化はなかったのだけど、いや、なかったからか、
 なんだかとても切ない気分になりました。

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この公演は甘夏も行ったのですが、もう、『家族でお食事夢うつつ』が
愛おしすぎて。劇場を出てから涙をこらえるのに必死でした。
ただでさえ家族ものには弱いのに、理解や無理解や寂寥や喜びを
あんなふうに凝縮して見せてくれるなんて。とても洗練され、
おしゃれな音楽と美術と、どこか手作業感のある舞台のバランスもよかったです。
(横浜のSTスポットという小劇場で、ダンス公演が多くやるところなのですが、いい箱なんだこれが)

そうそう現在は、ハッカ糖でおすすめしたマームとジプシー『あ、ストレンジャー』も東京・吉祥寺シアターにて上演中です。当日券もあるよ!
彩の国さいたま芸術劇場では、アクラム・カーン『DESH』が26,27日。
身体一個じゃ足りないわ!

ではでは、良い週末をお過ごしくださいませ。






ハッカ糖の2012・演劇と映画を振り返る.その二

と、いうわけで・・・遅れましたが・・・2012のよかった映画を振り返ります甘夏です。

というかこの映画のことを書きたかっただけなのかも。許して、
もうさんざんいろんなところで言われちゃあいますが、
『桐島、部活やめるってよ』 の素晴らしさについてです。

原作者の朝井リョウさんは、先日の直木賞受賞でも話題になりましたね。
私もこれから読みますぞ。

で、『桐島、』なのですが、
原作と映画はほとんど別物というか、映画が先で原作が後と言われても違和感がないような形になっています。私は映画を先に観ました。
ある高校で、桐島という生徒が部活をやめるという個人的な出来事が、
ほとんど学校全体を巻き込むような事件になってゆく、その数日間の出来事を
様々な登場人物の視点から反復の手法で描いた作品。

とても個人的な記憶を鮮明に思い出させる映画でした。
一枚一枚の絵はとにかく透き通っているように痛々しく美しくて、
音楽がいっさいかからないことも含めて、
人の心の中に裸足でおりて行くような気持ちがする。
一つ一つのせりふが、本当にたいしたことなんて話してないんだけど、
生徒のこころを生々しくえぐって見せるように描かれている。

私は高校のとき演劇部に属していました。
好きなことをしていれば幸せかなと思ってた。
でも、そこにも人間関係はあり、うまくやれないで悩んだ時間も長かった。
片道2時間という驚異的な遠さのところに通わせてもらってたので、結局は
辞める事になるのですが、部活の外にあった世界は
ある独特な残酷さや冷たさも含んだものでした。
でもだからこそ、
ひとりでいることの大切さや、好きな人に好きというよろこびもそのとき学びました。
そのとき出会った音楽や、私を支えてくれた小説の言葉は
今でもこれからも私の親友でいつづけてくれるんだろうなと思います。

いろんな高校生活があったろうし、高校生ってどう、とか勝手にまとめるのは
本当に勝手なので、あまりしたくない。でも、
ある時代の希有な時間をみんながもっと大切にできたらいいと思う。
友達のことも、親のことも、先生のことや好きな人のこともいい、でもまずは、
自分のことを、そして自分のものの見方や感じ方について、
軽やかにでも愛をもって育てられる時間、それがあの時代だと思うのです。

2月にDVDも出るよ! って、演劇雑誌のハッカ糖のブログなのに、
映画の宣伝と化してしまった。
でもね、それぐらい観てほしい映画なのです。

ほかにも2012年は、女のかわいさぎりぎりの業を描ききった作品『夢売るふたり』や、みんな大好き細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』など素晴らしい作品が目白押しでした。あ、洋画も私観ますよ。

映画と演劇は、観客層がかさなるようでかさならなかったり、
いろいろと縁も深いので、今後も探って行きたいと思います!

2013年1月6日日曜日

新年会と、TOKYO verb STUDIO

夜更けです。こんばんは! 先ほど新年会から帰ってきました。
大人はまあ、新年だの忘年だのお疲れだの打ち上げだの、よく理由をつけて集まって飲むものなのですが、今日私がいってきたのは、かつてやっていた、学生のための能楽公演を1から作る、能楽事始という企画の会でした。いやあ、楽しかった。一回こう膝つきあわせて何か作った事のある仲間うちは、時間があいても楽しめるもんです。

そして、

じゃん!
そのなかのひとり、Tくんがお仲間と作った雑誌、TOKYO verb STUDIO でっす!
越境、場所をみつけること、をテーマに、
東京在住のTくんと、アメリカ在住のMくんが作った雑誌。読みものも写真もいっぱいです。ここで買えます。

これから読みます。都内だと、ジュンク堂池袋店/ジュンク堂吉祥寺店においてあるとのこと。お近くのかた、探してみてくださいね!

追記:読みました。すごい明るい風がふわーっと吹き抜けて行くような読後感でした。読むところいっぱいあります。続刊が楽しみ!

2013年1月3日木曜日

新年あけましておめでとうございます。

三が日ももうすぐおしまい。どんな三日間を過ごされましたか?
「その1」と銘打ってそのまま年越ししてしまった甘夏です(スミマセン)実は年越しを初めて家の外、本州の外、海のむこうの石垣島で過ごしてました。


上空からみた海。パラグライダーで空に浮かんで撮った写真。声も出ませんでした。


初日の出。 展望台でおしゃべりしたお姉さんは、移住して6年、初めて元旦に晴れたよと言ってみえました。さいさきよし!

家族旅行だったので、二人の弟と一緒に竹富島という小さな島を自転車で走ったりしながら、ここでもし生まれ育ったとしたらどういう高校生活だったのかなあと考えたりしました。いつも視界の端に海があって、高い建物はそんなにたくさんなく、町を歩く人の半分は観光客で、天候はくるくる表情を変えて・・・南の島は楽園と言われるけれど、豊かな自然は苛烈な一面もあるもの、いろんなことに頓着しないでいないとやってられない、そういう底の明るさと暗さを感じて帰ってきました。

今年は、ハッカ糖創刊の年。昨年末に東京の片隅でちっちゃく種をまき始めたハッカ糖が、双葉を出して、根を張って、読んでほしい地方の高校生のみなさんのところに届けられるように、知恵を絞ってまいります。みなさんの一年が素晴らしく、笑っちゃうほど楽しい時間や忘れられない美味しい味でいっぱいになりますように。今年もよろしくお願いします。